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日本の動物たちの生活をよりよくしていきたい--動物トレーニングのプロフェッショナル齋藤美紀さんインタビュー #02


しつけという言葉は大嫌い!当たり前とされてきた因習に反旗を掲げ、動物との関係や生活がよりよいものになるよう、動物の福祉の向上を目指して奮闘されている、動物の行動とトレーニングのコンサルタント、齋藤美紀(さいとうみき)さん。

3つのターニングポイントをきっかけに、動物トレーニングの道にすすんだ美紀さんでしたが、苦難の末に辿り着いたドッグトレーナーとしての日々は、人間の建前や序列ばかりが重んじられる、理想とはかけ離れたものでした。

戸惑いながらも、「世界でいちばん、犬に優しい人になる」という初心を貫くべく、動き出した美紀さん。今回は、美紀さんが実際に起こした行動と、それに対する周囲の反応をご紹介する、アクション&リアクション編です。

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齋藤 美紀さん
1972年神奈川県生まれ。
法学部在学中に知ったプレス業に魅了され、卒業後はアパレルメーカーに就職。3年後、アップルのサポートセンターに転職し、アップルストア(当時はまだオンラインのみ)の立ち上げに携わる。その後、半導体のテクニカルライターを経て、2006年にドッグトレーニングのインストラクターに転身。2012年に独立し、2014年にBAWアカデミーを設立。以来、動物のトレーニングと行動のコンサルタントとして、国内外で年間約30講演をこなしている。

action 1 海外へ--今に繋がるメンターと出会い、日本トレーナー界の実状を知る


――まず最初に起こした行動は?
所属していた団体のトップたちが、ケチョンケチョンに言っていた、アメリカの団体のカンファレンスに行ってみたんです。彼らが言ってたことは、ほんとうか、確かめに。そしたらもう実際はぜんぜん違ってて。トレーニングは動物のためにある、動物たちが楽しんでないと意味がないっていう私の考えは、日本では、すごい否定されていて、ずっとひとりぼっちな感じがしてたんですけど。アメリカに行ったら「うわ、こんなに!」っていうくらい、もう何百人と同じ考えの人がいたんです。

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同じ思いの人がいる、というのはなににも変え難いパワーの源。


今の私のメンター(師)であるケン(*)にもそのカンファレンスで会いました。同じエレベーターに乗ってたのに、感動のあまり、まったく声がかけられないくらいカチカチでした。笑。
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Ken Ramirez
ケン・ラミレス氏は、アメリカ最大の屋内水族館シェッド水族館で、アニマル・ケアとトレーニングのトップを務めた人。世界を飛び回り、動物園や水族館の、高い倫理基準に基づいたアニマル・ケアとトレーニングのコンサルテーションを提供したり、国家規模の野生動物を守るためのプロジェクトにも、多数携わっている。


――広がった世界で、どんなことを感じました?
私は間違ってないんだっていうことと、日本が、いかに情報不足かっていうことを実感しました。日本には、お互いに、あっちよりはうちがいい、っていうトレーナーの小さいピラミッドがたくさんあるんです。

所属していた団体でも、海外からトレーナーを招いて、講演をしたりしてたんですけど、そのトレーナーたちは、トップの考えを否定しない人が選ばれてただけ。新しい情報なんかじゃない。ぜんぜん世界のレベルじゃない。ものすごい、いろんなフィルターがかかってたんだってことがわかって。

トレーニングの本だって海外にはいっぱい種類があって、それこそ、保護された犬向けとか、うさぎ専門とか、動物園の飼育員のためのものとか。いろんな種類があるのに、日本語に訳されてるものはすごく少ない。これでは、日本のトレーナーのレベルはぜんぜん上がらないって思ったんです。

action 2 情報収集--いい情報は広めたい、海外の人たちのシェア精神にふれる


――次にとった行動は?
海外のいい情報を広めよう!って思いました。海外の人って、自分が持っているいい情報を広めたくて、みんなにシェアするんですよ。情報も無料で配布していたりして。なので、発信者に直接メールして「日本語に訳させてもらえませんか。なぜならば、日本には少なくて...」ってお願いして、訳させてもらって公開するっていう作業をひたすらやりました。いい情報を公開しているいろんな人に声をかけて。

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こちらは逆に美紀さんが発信したいメッセージ。美紀さんの活動を知ったイラストレーターさんが、イメージを手がけてくれたそう。英語でも発信したら、今ではいろんな国の言語に訳され、広まっているのだとか!


――声をかけられた海外の人たちは、どんな反応でした?
私は日本人だし、なんのネットワークもない。持ってる資格も海外の人から見れば、なにそれ、どこの団体?みたいな感じなのに、「いいよ、いいよ、わたしの情報を広めてくれてありがとう」って言ってくれたんです。その中に、今の私のもう一人のメンターである、ユタ大学の応用行動分析学の教授スーザン・フリードマン(*)もいました。大学教授なのに、「いいよ、ありがとう」って。しかも、お礼にって言って、彼女のオンラインのコースをちょっと割引で聞けたりして。そうやって繋がりができていきました。

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Susan Friedman
世界の動物のプロフェッショナル向け(主に動物園の飼育員)に、行動や学習のしくみを理解して、動物のケアやトレーニングに役立てるためのオンライン・コースを解説している人。美紀さんとスーザンさん。


――情報収集の場、繋がりの場を、海外に求めることに不安はなかったですか?
実際、目の見えない犬のトレーニングの方法って、ほぼほぼ情報がないんです。私、自分でした目の見えない犬(Nonoさん)のトレーニングを、youtubeとか、自作のホームページとかで公開してたんですね。こうやって助ければいいよ、こうすると新しい行動だって教えられるよ、っていうのを発信してたんです。海外の人は、私のことをそれで知ってくれてた。


視聴回数が2万回を超える美紀さんとNonoさんのトレーニング 美紀さんのチャンネルはこちら

もう、海外でネットワークをつくって、海外に勉強しに行くしかないと思いました。もう日本の小さいピラミッドのどこにも属してやらない!笑。私は動物たちの役に立つために、自由に好きなものを勉強するんだ!って。

action3 独立--学習機会を創出し、日本のトレーナーたちを世界レベルにする


――収集した情報はどうやって拡散していったんですか?
最高のもの(トレーニング)っていうのは、より動物たちに優しいもの。去年やってたことより、今年やってることの方がいいなら、それを取り入れればいいだけ。変わるってことは悪いことじゃない。自分たちは正しい、と固執してしまう方が問題だと思って。そういう、小さなピラミッドの垣根を超えて、勉強してもらえるようなコースをつくりました。今やってる BAWアカデミー の、前身となる活動です。

最初は8人募集しました。たった8人でも埋まるどうかドキドキって感じで。笑。埋まったときは、ほっとしました。で、その人たちが口コミで広めてくれて、次の年は30人、その次は65人、90人って。それで、地方にも呼ばれていくようになっていきました。
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2018年の現在で、のべ300名近い方がコースに参加してくれているそうです。


――BAWアカデミーが目標としてることってなんですか?
基本的には、日本のレベルを海外のレベルと同じにすることが目標です。日本に教えにくる海外のトレーナーは、自分たちが当たり前だと思う基準で話をするんですよ。だけど、みんな知らなさすぎて「? ? ? ? ?」ってなっちゃう。すごくいい情報をもらってるのに、その価値がわからない。なので、日本のトレーナーたちを、新しい情報を理解できるレベルにまで押し上げるっていう目的で、総合的に教えています。

Reaction 賛否両論--建前なんてどうでもいい、どこかの動物が助かるならそれでいい


――日本の人たちの反応はどんなものですか?
今までやってきたことを全部否定することに等しい私の活動は、保守的な日本では賛同されないことのほうが多いです。でも私にとって大事なのは、動物により優しいこと。科学と倫理に基づいて考えて、よりいい!と思ったら、それを選びます。キャリアや肩書きのある人の言っていることと違おうが、動物たちの役に立たなければ意味がない。そんな感じなので、「急にやってきて、なにやら言い出してる人」として敵意を向けられるか、もしくは「面白い!」って思って勉強してくれる人か、どちらかですね。笑。

美紀さんと一緒に暮らすAlloさん。生活が心地よさげなのは一目瞭然 ♡


――どこにも所属しない活動。それでも年々、賛同者が増え続けていますもんね。
こうやって仕事をさせてもらってることは、奇跡的というか。トレーニングで食べていける人って、ほんとに少ないんですよ。やっぱりどこかに属さないと、基本的には仕事が回ってこない。なので、いろんなことに反旗を翻しながらも、「面白い」と言ってくれる人に、ほんとにいい情報を届け続けるしか私にはない。

だからいつも国内外を行ったり来たり。笑。オンラインで海外の人のコースを取ったりしながら勉強を続けてます。情報は、そのままだとみんなが理解しにくいので、噛み砕いたり、いろんな情報と組み合わせたりして、お届けしてるんです。

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見る人が見れば「おお!」となる、動物トレーニング界の大者たちだそう。アメリカでのカンファレンスにて。


――これまでの、いろいろな職場での経験も活かされていそうですね。他に難しさはありますか?
まぁ、お金にはならないです。笑。お金が儲かる情報ではないので、いつまでたってもリッチになれない。でも辞めてしまったら、また日本のトレーナー界は鎖国状態になる。私と似たようなことを教えている人は日本に3人しかいません。

なぜならみんな、自分が情報不足だと思ってないから。学校出たから、資格もらったから、それでもうOKだと思ってる。いつも思うんです。あなたに教えてくれた人、いつ勉強したの?って。トレーニングの知識や技術はツール。私はよく電話機をイメージするんです。最新はスマートフォンだよ?って。黒電話を使ってる人から、スマホの使い方教われないじゃないですか。線が繋がってないものなんて信じられないみたいな人に、インターネットの使い方なんて教われないよ?って。

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行動の変化の仕組みは、どんな動物も同じ(人間も!)。犬以外の動物もトレーニングします。


――すごいいい例え。なるほど。
日本って、文化的には進んでるじゃないですか。経済的にも発展してるし。自分たちが遅れている、情報が入ってきてないっていう感覚がまるでないんです。「遅れてるんだよ!私たちの感覚は普通じゃないんだよ!」っていうところから、お伝えをしないといけなくて。それはすごいコツコツです。
――賛同してくれている方への指導はどうですか?難しいなって思うことはありますか?
みんな、英語に対する壁が高い!すごい怖がってるんです。

私の強みは、どこの国の動物でも教えられることなんです。英語ができるってことじゃないですよ。言語がいらないからです。行動変化のしくみとトレーニングのテクニックは一緒だし、動物は言語が関係ない。まあ、飼い主さんに説明するのはちょっと難しいけれど。笑。

デモンストレーションは見ればわかるし、英語は、普通に受験英語ですけど、読み書きはできるので、海外の教科書も読める。用語と基本的な知識もあるので、講義を受けるのはOKなんです。だからみんなにも、「大丈夫、私が行けるくらいだから行けるよ」って言ってるんですけど。「えー怖い」みたいな。

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MOVメンバーで英語パーソナルトレーナーのMeglishと共催した、正の強化を使った英語への苦手意識軽減セミナー「違いを楽しめ!」


たしかに私も、英語で雑談するみたいなのは苦手です。ランチタイムとか、すごい小さくなってる。笑。でも、正の強化(*)って、良いところを伸ばす、良いことを提供して増やす、っていうトレーニングなので、それを学んでいる人たちは、私に対しても同じように接してくれるんですよ。だから、ダメなところは一切、指摘しない。

変な英語でも「わかんない」とか、「えー?」とか、そんな言い方は絶対しなくて「うんうん、きっと、こういうこと言いたいんだよね。みんな、美紀はこういうことを言いたいんだって!」みたいな感じで、サポートしてくれる。だから気持ち良くいられる。英語はぜんぜん上達しないですけど。笑。

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* 正の強化...行動に対して、いい結果を提供することで行動を変える、というトレーニング手法。写真は勉強を続ける動物のトレーニングに携わるプロたち。


動物をうまくサポートできたり、教えられたりする人は、人に対してもそれができる。私の英語がどうしようもないってことより、私の知りたいっていう気持ちや熱意の方を汲んでくれる。それに、動物たちの生活の質をよくしたい人の集まりなので、日本の動物たちのことも、私を通して助けられるって考えてくれてるんです。

自分の知識で、どこかの動物が助かるならそれでいい、誰かの役に立つならそれでいいっていう考え方。私の師匠のケンもそうだし、彼の師匠で有名なトレーナーであるカレン・プライヤー(*)もそうです。勉強したいという人にはすごくオープン。それが受け継がれて、私もそれをしてもらった。こんどは私がしなきゃと思うので、シェア精神を持って、活動してます。
――なんだか日本とだいぶ違いますね。
そうなんです!日本はみんな「俺の技は最高。だけど、教えない」「見て盗め」みたいな。みんなでよくなろう意識なしの、ケチケチ師弟制度。笑。

自分のスキルがちょびっとしかないと、ケチケチしなきゃいけないけれど、意識も技術も高いトレーナーは、高いスキルや深い知識があるから、誰かにに教えたところで、ビクともしない。そんなことより、動物の視点に立った、学習者が主役のトレーニング方法を広めたいという思いがあるので、ケチケチしたりしないんです。ほんと、かっこいいです。

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Karen Pryor
クリッカートレーニングを世に広めた人。


「先輩への侮辱だって怒ってた日本人と、この差はなんなんだろって思うでしょう?」といって笑う美紀さん。2ヶ月無視されたりとか、いろんな人に悪く言われたことも、今では良かったと思っているのだそう。「今でもそこの団体にいる自分のほうがゾッとする。だから、思い切って勉強しに行ってほんとに良かったなーって」。

美紀さんのように、強い意志をもって行動にうつせる人は少ないかもしれません。でも、共感できたなら、一緒に活動していくことはできます。次回、現在の具体的な活動と今後の展望については、9月16日(月)に公開予定ですこちらでご覧いただけます。