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2018.09.24
日本の動物たちの生活をよりよくしていきたい--動物トレーニングのプロフェッショナル齋藤美紀さんインタビュー #04
動物の行動とトレーニングのコンサルタントであり、ブラインドドッグ(目の見えない犬)・トレーニングのエキスパートでもあるBAWアカデミー主催 齋藤美紀(さいとうみき)さん。日本の動物の暮らしを、よりよいものにするため、日夜、奮闘されています。
行動とは、いつも、すべて、その人(動物)にとっての正解。行動を、感情ではなく科学で捉えること。そうすると、その人(動物)が、ほんとうに求めているものがわかるのだとか。
インタビュー最終回となる今回は、しつけという言葉が大嫌い!という美紀さんによる、犬との暮らし方のアドバイスです。美紀さんのパートナーAlloさんもたくさん登場します。動物と暮らしてないからって油断しないで!人間関係においても、きっと役立つお話です。
これまでのお話はこちらから ▶︎ ◯ 3つのターニングポイント ◯ 活動の場を海外へ ◯ より多くの動物を救うために
齋藤 美紀さん
1972年神奈川県生まれ。
法学部在学中に知ったプレス業に魅了され、卒業後はアパレルメーカーに就職。3年後、アップルのサポートセンターに転職し、アップルストア(当時はまだオンラインのみ)の立ち上げに携わる。その後、半導体のテクニカルライターを経て、2006年にドッグトレーニングのインストラクターに転身。2012年に独立し、2014年にBAWアカデミーを設立。以来、動物のトレーニングと行動のコンサルタントとして、国内外で年間約30講演をこなしている。
1972年神奈川県生まれ。
法学部在学中に知ったプレス業に魅了され、卒業後はアパレルメーカーに就職。3年後、アップルのサポートセンターに転職し、アップルストア(当時はまだオンラインのみ)の立ち上げに携わる。その後、半導体のテクニカルライターを経て、2006年にドッグトレーニングのインストラクターに転身。2012年に独立し、2014年にBAWアカデミーを設立。以来、動物のトレーニングと行動のコンサルタントとして、国内外で年間約30講演をこなしている。
トレーニングより、快適な生活
- ----私も犬を飼っているんですけど、トレーニングとかしたことなくて。家の中でトイレだけはここでしてね、ってくらいなんですけど...
- それでいいです。動物が快適なら。トレーニングは基本的に、動物の福祉の向上のためであって、トレーニングを先行しちゃいけない、と思ってます。私はこんなトレーニングできるから素晴らしい!とかじゃない。
犬がハッピーじゃなきゃ、動物たちがハッピーじゃなきゃ、意味がないじゃない?って思ってるので。別に、しないから問題なんじゃなくって、快適に暮らしてればいいんです、お互いが。ほんとにそれだけです。
- それに、なにかを教え直すのって簡単ではないです。してほしくないことだったら最初からできないようにしたほうが、お互いに楽。ほんとに。なので、トレーニングを勉強するよりも、どうやってお互いに生活しやすくするか、っていう知識を持ってるほうが、一緒に暮らしやすいです。トラブルも少ないから。
- ----知らないとやってしまいがちな、よくない行動ってありますか?
- 私たちって、叱られる文化じゃないですか。小さいときから比較的、叱られて育ってる。それ以外の方法で、他の人を指導するとか、行動をどうやって変えるかなんて、勉強したことないからわからない。叱らないと、悪い子になっちゃうかも、みたいな。
でも、叱っちゃダメです。叱っても意味がない。基本的に叱るって、相手のためじゃなくて自分のためなんですよ。自分が、フラストレーションがたまって、体の中にあるエネルギーを解消したいから叱ってるんであって、相手のためではないんです。
変わってほしいなら、違いを理解する
- ----なるほど、叱っても変わってはくれないってことですね。
- そう。苦痛は苦痛しか呼ばないので、嫌なことされた相手には、嫌な気持ちしか生まれない。それって、ハッピーなことには繋がらない。犬がしてることは、そのときはもうそれ以外方法がわからないからしてること。わざとしてる、とかじゃなくて、それ以外に方法がないんです。わかるように教えてもらっていないか、教わっていても、それがどうしてもできない状況にある。
犬は、人間ではない。違う種の動物。種として当たり前の行動も、コミュニケーションの仕方も違うので、ギャップがあって当然なんですよ。私たちが気持ちいいことと、犬たちが気持ちいいこと、共通していることもあれば、違うこともある。なので、違いは違いとして認める。
- 私たちの生活スタイルに寄せてもらいたいんだったら、それに対してきちんとお礼をする。非言語の動物たちにとって、言葉の意味は価値を持たないので、褒め言葉だけでは、お礼にならない。彼らにとって価値のある「食べ物」を使って伝えます。
自分にとって、より価値の高いこと、重要な方を選ぶのは当然。どんな動物でも。自分が、相手にしてほしいことを選択してもらうには、それを、相手にとっても価値のあるもの、お得なものにする。相手に「変われ変われ」って言ってるだけだと、どんどん気持ちがはなれていっちゃう。夫婦といっしょですね。笑。
わからないことを受け入れ、助けを求める
- ----みんな違う、はMOVの合言葉でもあります。笑。
- 笑。ペットだと身近すぎて、「この子は自分のこと人だと思ってるんじゃないか」みたいに言うじゃないですか。まるで一体化しているかのように。思ってないからって思うんですけど。笑。
そんなふうに感情移入しちゃって、自分とその子の考えの境目がなくなっちゃう。まるで自分がその子とおなじ感覚を持っているかのような、ね。でもおなじ日本語をしゃべってる隣の人のことだって、わかんないでしょ。犬とはコミュニケーションの方法も違うのに、わかるわけない。
大好きな相手がなにを考えているのか知りたいという気持ちは、よーくわかりますが、「この子はこう考えているんだ」っていうのは、決めつけ。それって、相手にとっては、してほしいことではない。誰だって、理解されたいけれど、決めつけられたくはないでしょう。
- 飼い主が困っているときは、犬はもっと困ってます。なので、犬を責めてもしょうがないんです。なんの問題解決にもならなくて、悪化します。犬はますます困るので、ますます望ましくない行動がふえちゃう。関係もますます一方的なものになっていっちゃう。
必要なのは助けです。助け方がわからないんだったら、助け方を教えてくれる人に、自分もその子も助けてもらえばいい。トレーナーや行動のコンサルタントが、動物の行動のプロ。助け方を教えてくれる人です。
トレーナーの仕事って、実は、動物に何かをやらせるのではなくて、その動物の視点に立って、その動物が抱えている困難を理解し解決すること。動物の精神面と行動面をサポートする人。飼い主と動物、その両方の生活と関係が向上するように手伝うプロなんです。
信頼できる人を探す
- ----では、助けてもらおうって思ったときに、注意したほうがいいことって?
- 預けるところが安全だとは限らないので、注意深く調べることですね。まずは自分の目と耳で確かめるべきだと思います。どういうふうに動物を扱ってるか、もっとも気をつけていることは何か、とか。
心身の安全を第一にしているか、必ず確かめてください。大きな声を出したり、リードを強く引いたり、首を絞めたり、精神的や肉体的に痛みを与えるような道具(痛みを与える首輪とか)を使ったり、扱い方をしているところは、論外。
恐怖や痛みを利用して、動物を人の思い通りに動かす、黒電話の人です(←前回記事参照)。そうした人たちは、犬を精神的に肉体的に傷付けても、責任を取りません。色々な言葉を使って、自分たちを正当化するだけです。バイバイしましょう。スマホの人(倫理的で科学的な行動のスペシャリスト)を選んでください。
- ----実際のところはなかなか見えにくいですもんね。
- 今の時代は、動物に関する法律が厳しくなったし、インターネット社会で、悪く書かれてしまうと思えば、簡単に悪いことはできないとは思います。でも残念なことに、日本はほんとに遅れている。古い情報や技術をまだ信じていたり、それを使っているプロフェッショナルの方が、科学的で倫理的な知識や技術を持っている人たちよりも、断然に多いというのが現実です。
忘れてほしくないのは、ペットショップやブリーダーは、犬を売ることのプロであって、動物の福祉のプロフェッショナルじゃない、ということ。獣医さんだって、獣医学的な知識はあるけれども、科学的・倫理的なトレーニングについて勉強しているわけでありません。
- だからよくわかっていない。わからない分野に関して、わかったように言う人ほど怪しい人はいないですよね。「犬なんて、シメてやればいいんだよ」みたいなことを言う、古い考え方の獣医さんも結構いる。なので、話してみて、そういう感じのところは、やめればいいです。選択できるので。
- ----美紀さんご自身も悲しい経験をされた、トリミングはどうしてますか?
- トリマーさんもやっぱり色々。トリマーさんは、完成した形でお金をいただくものなので、すごい嫌がってても、がんばって無理やり全部やることになる。なので、預けるときに「この子が嫌がったら途中でやめてもいいです」って言っておくといいです。どの部分が苦手そうで、それに対してどう対処したかを報告してくれる人だと、いいですね。
- あと、動物病院に連れて行くときも、トリミングのときも、私いつもお弁当を持って行きます。小さなお弁当箱に、Alloの好きなチーズとかちょっと切って入れて「途中であげてください」って。食べないっていうこともバロメーター。大好きなものを食べないというのは、相当のストレス状態。その犬は、究極に辛い状況にいるということ。それは、その犬を置いている状況や、やり方を変えるべきという、とても重要な情報です。
- 「食べ物あげるなんて、なに考えてるんだ、絶対だめ」みたいな獣医さんは、バイバイ。もちろん、血液検査があるとか、診察に影響があったらダメなんですけど、それ以外のときに食べ物あげたらいけないっていうのは、その人の感情論。ぜんぜん科学的じゃないです。努力に対して、それに見合ったフィードバックはしないと。その行動は繰り返されません。
毎日を楽しく!フードボールを忘れよう!
- ----じゃあ今日からできることありますか。
- おすすめが一つありまして、これ(コング)に食べ物を入れるだけなんです。
- フードボールで食べ物をあげるっていう感覚を捨ててもいいんです。フードボールであげるって、人が便利なだけなんです。洗いやすいし。だけど犬にとってはそんなに嬉しくもなくて。
なんか作業して食べられるほうがいいんですよ。それこそ、これを前足で押さえて、ぎゅってやったり、転がしたりして食べたり、首を傾けたりとか。何かしら工夫しないと食べられないんですけど、でもそれが大事で。作業しながら食べるって、実は、ただ食べるよりハッピーなんです。
- ぜんぜん取れないじゃんっていうのは、ただイライラするだけなんでダメなんですけど。笑。なんかちょっと工夫するっていうのが、犬にとっては精神的に良かったりする。なので、ほんと、フードボールはさよならしても良くて。
私たち(人間)って簡単に食べれるほうが、いい。配膳してもらったりとかね。笑。だけど、動物たちは、私たちと暮らしてると、食べ物を獲得するための活動ができない。それって実は、退屈さにつながっちゃうんですね。
コングがなければ、トイレットペーパーの芯でもいいです。端っこを折ってフードを入れて、はいどうぞって。そうすると、歯でびりびり破いたり、鼻で端っこ開けたりして食べる。紙なので、間違って食べちゃっても出てくるし、心配ないです。布とかプラチックみたいなのは危ないんですけど。
- 基本的に犬たちは、ゴミ箱あさりをして生き残った種族なので、常になにかを探して、なにかに取り組んで、結果いいことがある、っていうのが本来の生活。なので、1日2回の食事の方法を変えてあげるといいですよ。
トイレットペーパーの芯はもう一ついいことがあって。噛むっていう行為をする機会を提供できる。芯を噛んでるので、他のものを噛む必要が、あんまりなくなっちゃう。もちろん質感が違えば、魅力はあるんですけど。できれば望ましくないものじゃなくて、やってもいいもので、それ(噛む)をやってもらうっていう。ぜひ、びりっびりにしていただいて。笑。
- 紙なので、万一食べてしまっても、少しなら排泄されます。でも、たくさん食べてしまうようなら問題なので、違う方法を探しましょう。そうしたことも、トレーナーや行動のコンサルタントは、個々に合わせてアドバイスします。
美紀さんは、この道に入り、応用行動分析学を学んでから、まわりの人の行動も、つい、ABC(行動を理解するための最小単位Antecedent - Behavior - Consequence)で観察してしまうそう。例えて言うなら、絶対音感のある人が、すべての音をドレミで捉えるみたいに。
おかげで、物事を感情的に捉えることがなくなったものの、心ない態度や言葉に、時には打ちのめされてしまうこともあるそうです。そんなとき、美紀さんをリラックスさせ、前を向かせてくれるのは、一緒に暮らして1年になる愛犬のAlloさんです。
よりよい暮らしを求めることに、終わりなんてない。動物だって一緒です。もっとたくさんの動物が、美紀さんとAlloさんのように暮らせるまで、美紀さんの挑戦は続きます。