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2017.07.20
「世界に一本しかない、一生ものを作る」自分で作る自分だけのジーンズ
株式会社KCP・片岡陽介さんインタビュー
洋服を自分で作ったことがあるという人はどれくらいいるんだろう。
洋服を作るときの工程を知っている人はどれくらいいるんだろう。
株式会社KCPは、広島県福山市にあるプロダクトデザインの会社だ。
洋服作りで必ず余る資材に着目し、地域の工場と連携しながら、プロダクトデザインを行っている。そんな彼らはジーンズをプロダクトとして注目しており、しかもいま、生地選びから縫製まで全ての工程を自分で行える、世界に1つしかないジーンズを作れるお店を尾道にオープンする準備をしているそうだ。
今回は、ちょうど広島から東京にいらしていた株式会社KCP代表取締役 片岡陽介さんに急遽時間を作ってもらえることに。洋服に関しての知識がほぼゼロのMOVスタッフに、片岡さんはとても気さくにたっぷりお話してくださった。ほとんど知られていないちょっとショッキングな洋服作りの現状や、株式会社KCPがジーンズを扱うまでストーリー、この夏aiiimaでやっていただけることになったジーンズ作りのワークショップのこと(!)まで。
内容盛りだくさんになった分、少し長いインタビュー記事になりましたが、ぜひご一読ください。
■ 洋服を作ると必ず資材が余る。洋服作りの仕組み。
--いまの会社を立ち上げて、どれくらいになりますか?
片岡:まだ7年くらいです。7年前に、地元に帰って、それからなので。
--では、それまでは違うところで洋服作りを?
片岡:いや、京都にあるアパレルの会社で働いていたんですけどマーチャンダイズのような役割だったので、洋服作りのことにまったく関わりがありませんでした。もちろん、服を売ったりはしていたんですけど。その会社を辞めて、地元の(広島県)福山市に帰って、洋服の生産をしている会社に携わることになってから気がついたんです。「あれ、俺、洋服のこと全然知らないわ」って。
もともと売ってる人って、服がどういう風に作られているかとか、どういう仕様になっているかみたいな、そういうことを1%も知らないんじゃないかな。
--実際に働いてみたからこそ分かる部分ですね。
片岡:そういう洋服作りの流れや工程、仕様のことがようやくわかって、「これは...」と思ったのが今回の企画を始めるきっかけでした。例えば、ブランドから縫製工場に直接受注がいく、ということはほぼありません。
生地を手配する⇒裁断する⇒縫う⇒洗う⇒アイロンをかける⇒出荷
これが、洋服を作る大きな流れなんですけど、だいたい全ての工程を別々の工場が担当しているんです。
--完全に分業制なんですか!?
片岡:そう。工場が完全分業制になっているので、この工程の流れに沿って製品を回す人が必要になるんですよ。だからといって、そこにブランドの生産管理の人たちがやってきて「ジーンズ100本作るから」って、自分たちでそれぞれの仕事をまとめて、各工場さんにジーンズを移動してくれるということはないんです。
大体の場合、ブランドと工場の間に入って工程に沿って製品を回す会社があって、資材の手配なんかもそこにお願いするんですね。資材の管理もするんですけど、そこで恐ろしいほど資材が余るんです。なんでかというと、ボタンなんか100個単位で注文しないといけないから。
--それは、服を1着作るだけでも?
片岡:はい。注文できる最小単位がそもそも100とか50なんです。もちろん例外もありますけどね。多くの場合でそういう注文の仕方しかできないので、例えばモノにもよりますが「ボタン17個ください」って言っても売ってもらえないんですよ。もっと多い、キリの良い数字でないと。だから、絶対に資材が余るんです。洋服をつくると、100%、資材が余ります。
--そうなんですか......?
片岡:その余った資材は最終的に燃やしたりするんです。なんせファッションですから、終わったシーズンの資材を使いまわしたりはあまりしないんです。僕らはふだんプロダクトデザインばかりしているので、残資材にはけっこう敏感なんですよね。なんでかというと、きっちり効率よく資材を有効に使ってモノをつくっていくこともプロダクトデザインの重要な役割だからです。それがコストダウンにもつながるから。
ただ、大体の洋服作りの工程だと、作る洋服の数が多くなるとそれだけ注文する資材も増えて、余る資材も大量に出る。僕はそれにすごく違和感を感じたんです。「なんだこれは...」と。
--複雑な気分になりますね。全然知りませんでした、そういうことを。
片岡:洋服作りって、結構闇の部分があるので...。「ファッションってなんだ...?」と思ってしまいました。
--いま、ファストファッションの製造で東南アジアの労働環境が劣悪だって話を聞いたりしますけど、こうして材料の話をうかがうと「日本だって...」と悲しくなる話ですね。
片岡:知っているのと知らないのだと、ちょっと見方が変わってきますよね。もちろん全てのブランドがそのようなことをしているわけではありません。ただ、そういう現実があるのも事実なんです。
■ プロダクトデザインの観点からジーンズを作る
片岡:自分が知らなかった洋服の現状を知って、あらためて何かできないかなと余った資材を使ったプロダクトデザインをはじめたんです。ジーンズ作りもそのうちの1つというか。ジーンズって作るのはそんなに難しくないんですよ。だって、そもそも人間が作ってるんだし。
--もちろんそうですけど。(笑)
片岡:幸いミシンと生地もあったんで、ジーンズを作ってみようと思ったんです。そしたら、普通にできたんですよ。
▲パターンをもとにデニム生地の裁断、縫製、アイロンがけ、全行程を自分たちの手で行える。
パタンナーの方に聞きながらパターンを作ってもらって、縫い方がわからなければ工場さんに直接聞きに行って、そしたら普通にできました。自分で作ってみると、かなりテンションも上がったんです。まあ、手作り感は満載でしたけどね。(笑)
その時感じたのは、縫い物が楽しいっていうことはもちろんですけど、自分で作ったジーンズは一生大切にしてもらえるなということです。作った記憶が残るし、そんなジーンズは普通だと絶対にないし。
ーーたしかに。
片岡:自分で作ることで、そのプロダクトに対しての思い入れが桁違いに大きくなる。これって本当に大切なことなんです。
・思い入れのたくさんあるプロダクト
・大切にしてもらえるプロダクト
・長く使ってもらえるプロダクト
・シンプルないいデザイン
これがプロダクトデザインの目指す所の頂点だと思いません?
どうやったらいいデザインができるか、長く使ってもらえる物をつくるか、いろいろ考えて行き着いたのが「きちんとしたものを自分で作ってもらうのがいい」というところです。なのでそれを目指して、きちんとしたジーンズを作ってもらえるように、いい資材の調達はもちろん、作る工程や教え方など全ての工程を工夫して、仕組み作りを行いました。
▲縫い方、作る工程、教え方など、誰でもジーンズを作れるように独自の仕組みを作られている。
あと、ジーンズって買ってから10年以上もってる場合もあるじゃないですか。
--持ってますね。
片岡:10年以上もつ服って、なかなかないんですよね、意外に。でも、ジーンズは学生の頃に気合を入れて買ったものを今も履いていたりとか、そうしたら下手すると20年以上も持っていたりもする。
--たしかに。そう考えると、ジーンズって育てるタイプの服というイメージがあります。
片岡:そうなんです。だから、ジーンズってプロダクトとしてすごくいいなと思って、ファッションアイテムとしてじゃなくてプロダクトとしてジーンズを捉えてみたんです。だって日本人の半分以上はジーンズを持っているはずなんですよ、多分。そう考えるとジーンズはもうファッションじゃなくて、皿とか箸とか文具とか、だれでも持っているプロダクトと同じ位置にいるのかなって。
実は今度、ブロダクトデザインの会社が提案する、自分の手で自分のジーンズを作れるお店を広島県尾道の向島に作ろうとしてるんです。『unnamed jeans』っていう。
--来年の4月オープン予定と伺ってます。
片岡:はい。来年の4月にオープンできたらいいなと。まだ物件を探している最中ではあるんですけど、尾道はロケーションがすごくいいんですよ。本当に最高で。海岸沿いで、海を見ながらジーンズを縫ってもらえるようにしようと思っています。
--うわあ!気持ちよさそう。
片岡:朝来てもらって、目の前が海なので魚を釣る仕掛けを投げておいて、ジーンズを縫ってもらって、夕方に獲った魚を食べてもらうとか、そういうことが出来るんです。BBQとか。
--それは1日の内容が盛りだくさんなワークショップですね。
片岡:泊まれたらいいな、というのも考えているんです。そもそも、僕は尾道に観光資源を増やしたくて。
観光って複合的なところがあるというか、ジーンズ作って、魚を獲って、泊まれて、最後は尾道を観光してもらうとか、うまいサイクルをつくれないかなと思っています。ジーンズを作るだけのお店っていうのもできなくないんですけど、やっぱり、『unnamed jeans』は尾道の観光資源になる店にしたい。
--いま「体験を売る」ということが旅行やいろんな分野で、価値を置かれていますし、話題になりそうですね。
片岡:そうなるようにがんばります。
■ 広島に先駆けて渋谷で体験。『自分のジーンズを自分で作る』
--今回、MOVでやっていただくワークショップは『unnamed jeans』の出張先駆け体験のような形で、自分の手で自分の身体や好みにあっジーンズを作ることができるんですよね。本来は広島へ行かないとできないことを渋谷で。
片岡:はい。今回メーカーさんにお願いして、セルビッチデニムの生地を使ったワークショップをしようと思っています。有名なデニムメーカーさんの生地なので、色落ちの具合もかなりいいですよ。
▲岡山県産セルビッチデニム。ワークショップでは、種類や厚さ、色の違う3種類から好きなものを選べる。
分かる方には分かるんですが、きちんとロープ染色の生地です。味わい深い色落ちをしますので、10年20年と履いていもらえたらうれしいです。
▲セルビッチデニムの経年によるおよその色落ちの様子。どんどんあなた色になっていく。
あとはリベット(ポケットの端などを補強する鋲)や、ネオバ(ジーンズのフロントボタン)も、いろいろ持ってこようと思っています。本当に数え切れないくらい種類があるものなので、プレーンなものを選んでですが。手で打つんですよ。打つっていうか、ギューッとプレスする感じなんですが。
--それも自分でできるんですか?
片岡:もちろんです。最後、感動すると思いますよ。あとはボタンホールも手縫いになります。ボタンの大きさにあわせて切って、手で縫って...。
--すごく「できた!」って感じがしそうですね。
片岡:一番最後の工程がそうなので、かなり達成感はあると思います。ただ、あの、絶対に中だるみするので...。
--かなり長い時間の作業になりますもんね。実際、どれくらい時間がかかるものなんですか?
片岡:だいたい6~7時間ぐらいですね。もちろん、途中に休憩もはさみながらですが。どうしても長時間の拘束になってしまうことをお客さんに事前にわかっていてもらいたいのとほぼマンツーマンでお教えすることになるので、今回は完全予約制にして人数を限らせていただいてます。
途中で結構しんどい、ってなってくると思うんです。一番しんどいのが「縫直し」という作業。ミスした部分を解かないといけない、その作業時間が一番長いぐらい大変なんです。
--慣れないミシンを使うわけだから、失敗しないというのは難しいですもんね。
▲ワークショップで使用するミシン。ご家庭で使われるものよりも大きい。
片岡:ただ、時間はかかりますが小学校以来ミシンを触ってないって方でもできます。僕が知る中でできなかった人は、今のところひとりもいないので。
--わたし、針に糸を通せないぐらい不器用なんですけど、それでもできますか?(笑)
片岡:大丈夫です。なんなら糸は僕が通すので。(笑)
--最後に、今回の企画で「これだけは伝えたい!」ということを聞かせてもらえますか?
片岡:とにかく、ぜったいに自分でジーンズを作れるよ、ということを。どんなに不器用でも気にせず、なんの心配もしていただかなくて大丈夫です、ということを伝えられたらいいな。
▲実際に作れるデニムのサンプル。何度も書いているが、これが絶対に自分で作れる。
それから、一応ワークショップで作れるサイズの制限としてMAX36インチ、ウエストサイズだと90センチくらいをいちばん大きいサイズにしようかなと思ってます。あとは、細すぎる人も、自分で作ることが難しい場合があります。作れるサイズではない人は、僕らが実際にお話をうかがいながらその場で採寸してオーダーできるビスポークジーンズの受注も行ってるので、そちらを利用してもらって、どんな人にも自分にあったデニムを作っていただけたらなと。
8月18日より、aiiimaでは、製品が生まれる現場や背景を知り、モノとの関わり方を見つめなおす手掛かりとなるスモールビジネスを紹介する「hello ECOsperience | WANDERING CRAFT」を開催。ワークショップ、Popup Shop、トークイベントなど体験型のコンテンツが並ぶ。
会期中、株式会社KCPさんに主催していただくジーンズ作りのワークショップ「unnamed jeans」は、広島で実際にジーンズ作りを指導されているスタッフさんの元、自分の手で世界に一本だけのオリジナルシーンズを作ることができるスペシャル企画。 また会場には、デニムの生地を使った小物づくりのワークショップや、本格的なデニムのリペア体験ができるブースも併設。こちらは事前申し込みなしで、当日気軽に体験できるそうだ。ビスポークジーンズの受注も合わせると、かなり内容盛りだくさんとなっている。
▲デニムケースのサンプル。たたんでボタンでとめる、シンプルで使い勝手のいい構造。
▲膝破れのデニムリペアの様子。
本来なら広島でしか体験できないジーンズ作りのワークショップ。
「絶対につくれます!」と片岡さんからの力強いメッセージを受け取って、この機会に自分で作ったからこそ、きっと長く愛用したくなるオリジナルジーンズを作ってみてほしい。※株式会社KCPさんは現在、今企画のクラウドファンディングを実施中!企画の内容も詳しく載っているので、ぜひコチラのページも要チェックだ。