announcements interviews MOV
Channel
post small_talk

お茶と仕事のいい関係
− 急須でお茶を淹れてみたら〇〇だった話 FFW vol.05


ocha_thumbnail2.jpg

最近、お茶を急須で淹れていますか? ペットボトルの緑茶は飲むけれど、自分でお茶を淹れるって、豆を挽いてコーヒーを淹れるよりレアだという人も意外と多いのではないでしょうか。

飲むだけでもいいけれど、実はお茶は淹れるという行為にもいい効能がある。そう語るのは『お〜い、お茶!』でシリコンバレーに緑茶ブームを起こした人物、株式会社伊藤園の角野賢一さん。アメリカで活動していく中で再認識した日本の精神性を、今度は日本のワークシーンの中でひろめています。その名もOCHA experience

急須で丁寧にお茶を淹れてみたらどうだったか。私のOCHA experienceをレポートします。

コンセプトは「Restore Your Sixth Sense」



「第六感を取り戻そう」というのが今回のテーマ。
茶葉の香りや味はもちろん、見た目やそそぐ水の音、茶器に触れる触覚など、五感を研ぎ澄ませてお茶と向きあう。ビールで鈍りきった私の感覚は蘇るのか。実際に自分の手を動かしながら、おなじ茶葉でできる五種類の味わい方を通して、体感していきます。

kakunosan_genkikun.jpg

写真中央が角野さん。隣はFood for WorkingをたちあげたMOVスタッフ




茶葉がひらくまで瞑想タイム



一品目は氷水出しで淹れる緑茶。「通常、ひとり分のあたたかいお茶を淹れるときは、ティースプーンに1杯、2gくらいでいいんですけど」という言葉にハッとする。茶葉の適量なんて、そういえば知らなかった。

角野
氷水出しといいますと、お湯よりお茶が出にくくなりますので、1.5~2倍ぐらい。今日はスプーンに2杯くらいを急須に入れて。そのあとに氷をひとつふたつ入れてください。お茶っ葉の上にどーんと。

茶葉の上に箸でつまんで氷をのせる。涼やかな見た目だ。水の量も非常に大事だそうで、この時は用意された茶器に半分くらい水をそそいで量り、それを急須に移した。


koori.jpg

実はお箸で氷をつまむのはけっこう難しかった


角野
蓋をしめていただいて、これで3〜5分くらい待つんですね。ただ待つのも暇なので、今日は瞑想みたいなことをみなさんと一緒にやろうかなと思います。

畳が敷き詰められた会場で、20名くらいの人が胡坐だったり正座だったり、思い思いの形で姿勢を正し、呼吸をしっかり整えていく。長く吐いて、ゆっくり吸う、この繰り返し。しんと静まり返るとうっかりニヤニヤしがちな私は、急須の中にひんやりした冷気がひろがるのを想像した。ふう。すう。

角野
では、ゆっくり目を開けていただいて。瞑想というと大袈裟ですけど、深呼吸を少しでもするって、仕事の合間にもいいと思いますので。いいなと思った方は、取り入れてみてください。

ocha_kaijo.jpg

いつもはカーペット敷きのミーティングルームに畳を敷き詰めました。気持ちいい。




茶器が奏でる音を聞く



角野
ではそそいでいきましょう。茶器に、水をそそぐ時と、お湯をそそぐ時では音が違うんです。実際に集中してやっていると、そういうことも感じられるようになる。今日はこのあと、お湯でもお茶を淹れますから、聞き分けながらやっていきましょう。

ちょっと高いところからそそいでみたりしても、音の違いがあるらしい。あちこちからする水音が心地よい。水音に集中すると、会場に流れるBGMの存在も意識の外へ。

角野
最後の一滴に旨味が凝縮されていますので、しっかり最後の一滴まで淹れてください。

sosogu.jpg

ぽたぽたと滴る、最後の一滴まで逃さずそそぐ!


傾けた急須を時折、水平に戻しながら(手返しというそう)、少しずつ少しずつそそぐと、お茶がよく出るのだそうだ。そそぐ度にうっすらとグリーンの色味が感じられるようになるものの、見た目はかなりの透明度。さて味はどうか。いただきます。




凝縮された旨味を堪能する



角野
どうですか。けっこう旨味みたいなものが感じられるんじゃないかなと思うんですけど。

お茶から連想される渋みや苦みは一切なく、色味からすると意外なほど、さわやかなお茶の旨味が感じられた。

角野
今日つかっている茶葉は、静岡の山のほうの天竜という地域のお茶です。天竜は早朝と日中の寒暖差が非常にありまして、朝もやが出る地域なんですね。 そういう地域ですと露が葉っぱに滴って、甘味や旨味が凝縮されるといわれています。この旨味はお茶の成分であるテアニンなんですね。水出しはこのテアニンが多く抽出されるのが特徴です。非常に強い旨味が楽しめますよ。

ocha_hatake.jpg

茶畑のイメージ(引用:伊藤園グローバルサイト


テアニンにはリラックス効果も認められている。フル稼働した頭を落ち着かせたいとき、ほっこりしよう思うと温かいものを想像してしまうけど、お茶なら水出しでもいいんだな。



苦味渋味をコントロールして味わう



つづいて急須から氷を出し、今度はあたたかい緑茶を淹れる。熱いお湯もさきほどとおなじ要領で分量を量り、茶器から急須に移す。

角野
一煎目の場合はだいたい30秒くらい待つとお茶が出るんですけど、これは二煎目で、さきほどの水でけっこうお茶を開かせていますので10~15秒くらいで出していきましょう。手を返しながら少しずつ出していただいて。最後の一滴まで。しっかりと。

音はさきほどよりも低いというか、しっかしとした音に聞こえた。色味は水出しよりも濃いグリーン。もともと茶葉が冷えていたり、茶器経由で湯冷ましをしているので、熱々というよりすっと飲める適温だ。そして水出しよりもちょっと苦い。

角野
お茶は基本的に3つの成分なんです。苦味のカフェイン、渋味のカテキン、旨味のテアニン。お湯の温度が高いほど、苦味のカフェインと渋味のカテキンがたくさん出るんです。苦くて渋いお茶が好きな人は、熱湯で手早く淹れるといいです。

温度で抽出される成分が変わるというのが面白い。いい茶葉はお湯を少し冷まして、70℃くらいで淹れると旨味の強いお茶になるそうだ。茶器を温める意味でもポットから茶器にそそいで湯量を量り、それから急須に移すという一手間をかけると、お茶がより美味しくなる。覚えておこう。



茶葉を食べてみる



角野
急須をあけていただいて、しっかり葉が開いているお茶っ葉を小さな器にとって、それにポン酢をひとかけして食べてみてください。どうでしょうか?

chaba_ponz.jpg

ポン酢をお好みで。


ほうれん草よりもアクを感じないし、お茶の渋みもほとんどない。ひらいた茶葉がふかふかとやわらかくて美味しい。

角野
お茶っていうのは、一本のお茶の木から、年間で複数回収穫します。『夏も近づく八十八夜』とかいいますけど、2月の立春から数えて88日目、だいたい5月2日くらいが88夜といわれて、新茶を摘む時期なんですね。今日つかっている茶葉は、この新茶とよばれる一番茶です。

一番茶は、冬の間に土から蓄えた栄養分をたっぷり含んだ、もっとも栄養価が高く旨味のつまった美味しい茶葉。調べてみたら、茶葉を食べることでしか得られない(水やお湯では抽出できない)栄養素もあるとのこと。いい茶葉は捨てるところなし!

itoen.jpg

いろいろなお茶の情報が掲載されている伊藤園さんのサイト「お茶百科




ほうじ茶の活用法



角野
今度は、おなじお茶っ葉に火を入れていますが、さて何ができるかわかる方いますか?

さらさらという音とともに、会場内にとても香ばしい香りが漂う。この香り、なんだっけ...。

角野
茶葉を焙ると、実はほうじ茶になるんです。これ、知らない方が多くて、ほうじ茶っていう種類のお茶があると思われている方も多いんですけど。

なるほど、ほうじちゃ、を文字変換すると「焙じ茶」となる。本来は、新茶のあとに収穫される二番茶や三番茶のように、栄養分が少なく、あまり風味もよくない茶葉を美味しくいただくために、火を入れて香りをつける。一番いい状態の茶葉をほうじ茶にしてどうするのか。

角野
このほうじ茶を茶葉のままバニラアイスにかけて食べてもらいます。これはなかかなか美味しいですよ。

ほんのり温かい茶葉は、サクサクした歯ごたえで、甘いバニラと一緒に香ばしい香りが鼻から抜けていく。思った以上に美味しい!

角野
もしご家庭でやろうと思ったら、一番茶のけっこういいやつを買ってください。三番茶四番茶でやったら、喉がイガイガして食べれないです。いい茶葉を、フライパンで2、3分焙るだけで、こういう楽しみ方もできるんです。

見た目でいうと、針のようにぴんとした綺麗な形の茶葉。スーパーで売ってるものとは全然違う。これは浅蒸しという茶葉の特徴で、旨味をたくわえた新茶の自然の風味を生かすために、わざと葉を浅く蒸し、なるべく繊維を壊さないようにしてあるそう。一番茶で浅蒸しのお茶を選べば、飲むだけでなく食べることもできる。ちょっぴり高くても価値はありそうだ。

asamushi.jpg

お茶の蒸す度合いと見た目のちがい(引用:伊藤園オフィシャルサイト




幸福度1200倍の香り



では焙りたてのほうじ茶を飲んでみよう。今度は3、4人分を急須からそそぎ分ける。急須を持つ手を返しながら、それぞれの茶器に少しづつまわしそそぎ、お茶の濃さを均等にするのがコツ。1、2、3。1、2、3。「天才的なお茶入れですね」と、向こうの方で誰かが褒められていた。

角野
ほうじ茶は基本的に熱湯で淹れて香りを楽しむお茶です。烏龍茶や紅茶との違いを考えていただくとわかると思うんですけど。お湯の温度で味が変わる緑茶とは違って、紅茶とか烏龍茶はあんまり変わらない。なぜかというと香りで楽しむお茶だからなんですね。ジャスミン茶なんかもそうです。

熱々の熱湯で短時間で出し、さっと湯気が立つ中で飲むほうが美味しいほうじ茶。香ばしい香りは、幸福度を1200倍にするという研究結果もでているという。"おなじ釜の飯を食う"的効果か、みんなでシェアしたことで会場はやんわりとした空気に包まれた。

ocha_kaijo2.jpg




お茶を急須で淹れるということ



角野
実際、私も小さなポットや茶器を持ち歩いて、会議の前や客先でお茶を振舞うこともあるんですが、その方が場の空気が和むんですね。

たしかに、急須でお茶を淹れるとは、みんなで淹れるならコミュニケーションツールだし、ひとりで淹れるならマインドフルネスに近いのだろう。OCHA experienceを経て、お作法が厳しいとか、めんどくさそうといった、これまでのお茶のイメージは払拭された。お茶は、自身で楽しみ方を変えられるのだ。

それに、畳のなんともいえない心地よさも実感できた。これも角野さんのいう、日本の精神性の再認識なのだろうか。コワーキングスペースだからこその楽しみ方も、もっとひろがりがありそうだ。これぞMOVが取り組んでいる Food for Working!角野さん、ぜひまた来ていただきたいなぁ。


Food for Workingとは...

"食"というキーワードから、 より良い"仕事"をするための ヒントと仲間を探す会です。会ごとに、テーマに沿った悩みを解決してくれる食事や飲み物を、実際に食べたり飲んだりしながら、みんなで話し、自分なりの"食"への考えを探してもらいます。