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2023.08.15
11年愛用してきたソファの解体(張替え)に挑戦!後編ー MOVしごとば探訪 #006
知っているようで知らない日用品を実際に解体してみることで、なりたちを理解し、もっと好きになり、ずっと大事に使い続ける。
そんな体験のヒントになる『生活の解体展』にあわせて、11年愛用してきたソファの張替えに挑戦してきました。
MOVしごとば探訪、第6弾は番外編。いすの張替え体験レポート後編です。
前編では、もともとの張り地を剥がす体験をレポートしましたが、今回はいよいよ新しい張り地を張っていく工程です。
「張り替えは難しいけど、剥がす工程なら皆さんでもできると思います」と、素人の突拍子もない申し出を快く受け入れてくださった、いすはりかえ 東加工所さんに今回もお邪魔します。
目指すのはこれ
お願いした4脚のうち、すでに3脚は張り替えが終わっており、残すはあと1脚。その張り替えをライブで見学させていただけるとのこと。こちらはボーダー柄でお願いした2脚。生地サンプルを見ているだけでは想像しきれなかった仕上がりに大満足です!かわいい!こちらはチェック柄でオーダーしたもの。かわいい!それに、なんだか張り替え前よりぷっくりとして、座り心地もよさそうに見えます。気のせいかな。
今回も、簡単なところは、MOVスタッフにも体験させてくださるとのこと(嬉)!教えてくださるのは、職人になって10数年というカズキせんせい。鹿児島から拠点を移し、修行を積んで独立されたのだそう。素敵な笑顔!
そういえば表にはふたつの屋号がありました。工房はシェアしてるけど、きちんと独立されてる証なのだそうです。スタッフの頭上に「井ノ上製作所」の文字。
作業スタート
すでに裁断・縫製済みの張り地を並べて確認。前回剥がした張り地をもとに、4つのパーツができあがっていました。先日、握力の限界まで外しまくった針を、今度は打ち込む機械がこちらのタッカー。コンプレッサーにつながっている文明の利器。(昔はハンマーで釘打ちしていたんだそうです...!)
まずは座面から。かすかすにすり減っていた綿をふんわりボリュームアップ。ぷっくりした感じがあったのは気のせいじゃなかった!かわいいフォルムは綿のおかげだったんですね。
ぴったりに縫製された座面用の張り地をかぶせていきます。綿を潰しすぎないように、でもシワもよらないように。
縫い代の部分が表面に響かないように、下向きに折り返されているか指先で確認します。細かい! チェック柄の格子の色やピッチが均等かどうかも大事なポイント。メジャーで測って印をつけて仮止めし、ずれたら修正。細かい細かい!
止めた部分をヘラでならしながら、奥までぎゅっと押し込んで、余分な布をカットします。
お気づきでしょうか座面下側。まだ覆われていませんね。側面は2つのパーツを張っていくんです。つなぎめのパイピングがきれいに出るように、段ボールの芯で折り返し裏側から止めます。ここでも、上部の柄とのつながりに注意して、慎重にあわせていきます。
打ち込む箇所によって、使う針も変えるのだそうです。そういえば外しているときも、細くて短い針や太くて長い針がありました。
「ここ簡単なのでどうぞ」ということでいざ。段ボールのキワ、1ミリくらいのところに等間隔で打っていきます。歪みが出ても修正しやすいように、真ん中から外側にむかって。リュックをおろすのも忘れて集中するMOVスタッフ。笑。
タッカーのトリガーが思ったより軽く、受け取った瞬間に空中に誤射して焦る筆者。
スムーズに打っていたのは職人さんだから(そりゃそうだ)で、しっかり力を入れて押し付けないと、針が浮いてしまってやり直し。でも強すぎると布を痛めちゃう。ひと針打つのに10倍くらいの時間がかかります。
折り返すと、こんなにきれいなパイピングが!上下のチェックのつながりもバッチリです。
次は底面を止めていきます。カーブになってるところは頂点の中心をやさしくなでつけ、餃子を包むようにヒダをつくります。もちろん、格子のピッチが均等になるよう気をつけながら。ここが終わっていったん座面は終了です。
さあ、背面です。ここも綿でふわふわに。多すぎるとことは手でちぎりながら調整。
おぼえてますか?背面に11個の鋲どめがあったことを。なんと、背面は鋲どめから始まるんです。お揃いの布でくるまれた鋲に糸を通します。え、糸? 張り替え前は長い画鋲みたいな感じだったけれど...。
糸を大きな針に通し、あらかじめ印がつけてあった鋲の位置にブスっと。そのあと、綿のほうにもある窪みを手探りで探してブスッといきます。
裏から糸をぎゅーーーっと引っ張って、本体の木材にタッカーどめしていきます。近くに打つ木がないときは、ボタンで。いろんな技があるんですね。
きました難関ポイント!鋲の数は上段6ヶ所、下段は5ヶ所。やみくもにひっぱるのではなくて、表面にきれいな三角ができるように、丁寧にひだをおります。美しい〜!
お次は最上部。ここちぎりパンみたいに山になっているんですが、そこも格子に合わせていきます。もしかして(いやしなくても)柄物って難易度あがるんですね。
せんせいがきっちり整えたひだを崩さぬように、再びタッカー打ち体験。ちぎりパンの山をちぎりパンみたいな手でおさえるの図。「上手ですよ」って、すごいほめてもらえてテンション上がります。るん!
下側をとめていくときも、ひだの内側で見えなくなる色味を揃えていきます。このソファの難易度、レベル10段階でいったらいくつ?と伺ったところ、「レベル6」という回答でした。(ちなみに剥がしのアツヤせんせいの回答はレベル3。)
ここで座面と結合!枠と底が水平になったらズレないように万力で抑え、ビスどめ。これも体験させてもらったのですが、ビスがスクリューされる音だけで「いまいい感じにしまりました」っておっしゃってました。職人さんは耳もいい!
慎重に外した背面のウレタンですが、残念ながらくたびれ過ぎていて再利用ならず。布にあわせてカットした、新しいウレタンにスプレー糊を噴射して貼りつけます。これもグリップが絶妙で、緊張して肩上がり過ぎな筆者。
ウレタンのうえに、最後の一枚を張っていきます。カーブしているので、ゆるくたるんでもダメ!ひっぱりすぎてシワがよってもダメ!絶妙な加減で、パイピングのキワキワをとめていきます。
「パイピングの根本にタッカーをあてると、ほんの少し生地が沈むポイントがあるので、そこを狙ってください。」と教えてもらっているところ。そうすると、できあがりがほんとうにきれいなんです。 羊のツノみたいな両端は、余分な布をカットしながら渦巻き状にひだを作っていきます。中心にくるみボタンがついた釘を打って仕上げ。
底面の仕上げに使う、黒い布を切るせんせい。手にしているハサミは、この工房のなかで一番高価なツールなのだそうです。もちろん刃先を研ぐのもご自身で。
大詰めです。底面を黒い布で覆います。片方の手で軽く内側に折り曲げながら。張り終わったら、脚のネジを差し込む穴を錐で開け、脚をネジネジして完成です!
まとめ
こうして解体から仕上げまで体験させていただいたことで、いっそう愛着が増したソファ。『生活の解体展』の醍醐味を、身をもって体験できました。また今回、体験を受け入れてくださった東加工所さんは、現代表の太平さんのお父さまが、副業として始められた家業。前述の通り、以前は釘とハンマーでしていた椅子張りはまさに職人技で、その二つの道具さえあれば全国どこででも仕事ができるということで、本業のあいまに張り替えをしていたのだそうです。いまは、家具メーカーからの依頼も個人のお客さまからの修理も、おなじように承っているそうなので、張り替えを検討されている方はぜひ、WEBサイトをチェックしてみてください。
体験してみてよかったことがもう一つ。仕上げてくださった方を思い浮かべることができることです。ここで働く職人の皆さんは、お互いを尊重し、尊敬されていて、そんな空気が伝わってくる温かくて素敵な工房だったんです。
ご協力くださった太平さん、ほんとうにありがとうございました!!皆さんの尊い手仕事によって生まれ変わったソファ、これまで以上に大切にします!そしてまた10年たったら、ぜひ張り替えをお願いしたいです!!!
MOVしごとば探訪とは...多彩なMOVのメンバーさんの働いているところにお邪魔して、お仕事ぶりを拝見したりときには体験させてもらったりする企画です。