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資源と喜び(JOY)が 循環(CYCLE)する社会を創造する
ー株式会社JOYCLE 小柳裕太郎さんにインタビュー!前編
新卒で商社に入り、その後、人材ベンチャーや大手の新規事業開発部署を経ていく中で、環境エネルギーに関心を持ち、その分野に特化したU3イノベーションズに入社。現在は自らも新規事業家として、ごみを運ばず燃やさず資源化する、分散型アップサイクルプラントの普及に取り組まれている小柳さん。
登龍モヴ他、さまざまなピッチイベントで受賞され、VCからも注目を集める小柳さんに、事業のこと、立ち上げに至った経緯や、今後の展望などについて伺いました。お相手は、一般社団法人530(ごみゼロ)の代表で、MOVスタッフでもある中村元気くんです。
小柳さんが目指す、資源が循環する仕組みとは?
選択肢を増やせるような事業を作りたい
まず、現在の事業につながるきっかけはあったのでしょうか?
社会人になって初めて入った商社で、パプアニューギニアに駐在し、現地の村に海水淡水化装置(海水を飲み水に変える装置)を設置するプロジェクトを担当したんですが、ある日「プロジェクトの補助金が行方不明になりました」という新聞記事が出て。
毎日、片道2時間くらいかけてポリバケツで水汲みに行くその村の子どもたちに、別の選択肢を用意したかったのに大失敗してしまって。どうにかリベンジして、人の選択肢を増やせるような事業を作りたいと思っていました。これが原体験にあります。
新規事業をされたかったということですが、なかでも環境エネルギーに関心を持ったのはどうしてですか?
さまざまな新規事業を拝見していく中で、社会変革レバレッジがいちばん高いと感じたからです。環境エネルギーに関連するいろいろなソリューションを調べると、研究開発型のスタートアップは多いですが、課題先行でソリューションや技術を紐づけていくスタートアップはあまりいないことに気づいたんです。
同時に、日本のごみ焼却炉がどんどん閉鎖していて、ごみのたらい回し問題が自治体間で起こっていると知りました。であれば今後は、ごみの処理方法を見直し、さらに値上がりが続く産廃処理コストをさげることができれば、事業として成り立つんじゃないかと思ったんです。
ごみのアップサイクル事業におけるJOYCLEの強み
そうして立ち上げた株式会社JOYCLEが、いま取り組んでいらっしゃることとは?
ごみを運ばず、燃やさず、資源に変える。分散型のアップサイクルプラントを普及しようとしています。そのためにはまず、これまでのごみの処理方法と比較して、導入後のデータを客観的に評価できることが必要だと思い、コストカット効果や脱炭素効果をリアルタイムで可視化できて、現場のオペレーションも便利にできるJOYCLE BOARD(ジョイクルボード)というシステムを立ち上げました。
さらに蓄積したデータから、カーボンクレジットの認証が取れる可能性も高まっていて、経済的なインセンティブをもたらすことができると思っています。ポテンシャルはどんどん出てくるかなと。
JOYCLE BOARDはどんな焼却システムでもデータを取得できるのですか?
そうですね。データの取得自体は、技術的にはそんなに難しくないですし、プラント自体にもこだわりはないです。僕らの強みになり得るのはデータを蓄積していくことです。もともと、どこの焼却炉にどうやって運び、どうやって燃やして、その結果なにに再利用されてるんだっけ?というベースになる処理と、運ばないで資源化した場合との差分を、事業ごとに算出しています。専門的な知見も必要になるので、大学の先生とも連携して。ここはかなりスピード勝負ですね。
ごみのアップサイクルもさまざまある中で、JOYCLEの技術や手法を選んだのはなぜですか?
こと、ごみのアップサイクルに関しては、アップサイクルの技術を開発している方が非常に多い。そういう新しい技術が普及するように、インフラを分散型にして、アップサイクルそのものを盛り上げていこうというプレイヤーはいません。競合が少ないし、必要なジャンルだから面白そうだし、やる意義があるなと思ったからです。
また業界全体の背景として、1970年に制定された産廃処理法が、ちょうど見直されるべきタイミングにきています。ですが、ごみを集めて燃やして埋めれば儲かるという業界的な慣習のなかで、なかなか新しいことを推進できる人材が少なく、スタートアップがイノベーションを生みだすことが期待されています。この分野でがんばることは、非常に大きな成果につながるのでは、とも思っています。
アップサイクルといえばJOYCLEという世界観を離島エリアから
すでに実証実験もされているそうですが、わかってきたことなどはありますか?
日本全国でいうと、やはり大きいごみ処理装置の方がボリュームメリットがでるので、分散型のインフラよりESGの貢献効果が高いことが明らかになってきました。サーマルリサイクル(ごみを燃やした熱を再生エネルギーとして使用する)を行なっているエリアでは、不要なケースもあると思います。
一方、離島が多い沖縄エリアは、ごみの処理過程で海上輸送が発生します。船を運行させる重油のインパクトが大きいので、ここでは分散型のインフラの方が圧倒的にESG貢献効果が高かったんです。ですので、非常に有効だと思われる離島エリアや地方を中心に、ごみのアップサイクルといえばJOYCLEだよねという世界観をつくっていくのは、いい方向性なんじゃないかと改めて思っています。
都市部ではどうですか?
都心部での有効性については、おむつごみで検証しています。高齢化が進んでおむつごみが増加しており、2030年にはごみ全体の7%くらいになるといわれています。加えて、おむつごみに含まれる屎尿は難燃性が高く、燃やす際に多量の灯油を必要とする要因の大きな一つになっていたり、おむつを構成するポリマーが炉の中にひび割れを起こしてしまったりするんですね。
そこで今、国立の老健施設さんと連携し、おむつを処理するプラントにセンサーをつけて、データを取得してみています。導入している企業さんだけじゃなく、自治体にとっても、灯油の使用量を削減できるなどの具体的な効果を示すことができないか、トライしているところです。
資源が循環するJOYCLE SHAREの取り組み
これまでで特に難しかった部分、もしくは仕組みづくりにおいて気をつけていらっしゃることはありますか?
いちばん誤解を与えたくないのは、既存事業の競合になるようなことは考えていないということです。今までこの業界で頑張ってこられて社会を支えてきた産廃業者さんも一緒に儲かる仕組みにしたいんです。
起業したばかりの頃は、地場地場の産廃業者さんを回ってけっこうヒアリングもさせていただきました。みなさんを敵に回す事業じゃないんです。どうですか?興味ありますか?みたいな。丁寧にご説明して動いていくことは心がけていますね。開発で苦労したかというと、まだしていないので、これからいろんな怖い目にあうんだろうなとは思っています。笑。
では、今後の展望について教えてください。
産廃処理コストがまだそんなに高くない地域での活用や、グローバルに展開していくことも前提にすると、分散型プラントとモビリティを融合させ、シェアしなががら費用対効果をより高めた形で使っていただけるインフラが必要だと思っています。そこで計画しているのがJOYCLE SHARE(ジョイクルシェア)というインフラです。
まず、ごみの排出事業者さんのごみのストックヤードに重量センサーを設置し、ごみの種別ごとに蓄積量を測り、一定量になったら、JOYCLE BOARDの可視化機能が前提になったプラントをデリバリーします。ごみの出元で、ごみになる前に資源化し、次の排出事業者さんのところに移動する。Uberのアップサイクルプラント版みたいなものですね。このデリバリー受発注システムを開発中です。
受発注システムが上手く顧客を選定できれば、地元の運搬収集業者さんにとっては、運搬コストの削減や、運転距離の短縮といったメリットが生まれる可能性があります。また、ごみの排出事業者さんも、サービスの料金設定次第では、既存の産廃処理コストよりも安くサービスを利用できるかもしれませんし、ESG貢献効果を示すデータは企業の環境貢献目標の要件クリアにも寄与すると思っています。
JOYCLE SHAREがぐるぐる巡回しながら、環境につながるデータを蓄積し、ごみからできた資源を物量的に最も効率の良いタイミングで回収するまでを想定し、こちらも実証実験の準備をいままさに進めているところです。
既存の事業や機能に置き換わるのではなく、一緒に巻き込みながら課題や問題点を解決していくJOYCLEさんの取り組み。地域で見かけるごみ収集車が、JOYCLE SHAREに変わっていく未来も楽しみですね。さて後編は、生きている以上、出さずにはいられない(と思っている)ごみだけど、そんな概念すらなくなるかもしれない、というお話です。お楽しみに!